研究概要 |
1.日本のゲルマニスティクはドイツ語圏のゲルマニスティクの研究成果を一方的に受容し,ドイツ語圏の研究を雛形としてドイツ語圏の研究に同化しようと努めてきた。その歴史を反省的に振り返ることにより,西洋の学の概念を唯一「正しい」とみなし,西洋の,ひいてはドイツ語圏のゲルマニスティクを学問的認識の正しさの基準とする考え方の背後に,実証主義が潜んでいることを発見し,日本の視点から独自の研究成果を発信できるゲルマニスティクを構築するためには,この素朴な実証主義信仰からの解放が必要であるとの認識に至った。2.ドイツ語圏においても知るに値する独自の研究成果を発信する「ドイツ語圏文化学」の構想について,それに基づく下記のテーマのケース・スタディを提示,ドイツ語圏,フランス,イタリアなどヨーロッパの研究者ならびに中国,韓国,台湾など東アジアの研究者と議論を交わし,おおかたの支持をえた。(1)ヘルダーにおけるVolkの概念と日本語「たみ」および漢語「民」との比較対照,(2)自文化の概念による異文化の概念の説明における諸問題,(3)禅の美学をドイツ語で説明する,(4)ケンペルの痕跡からゲーテの手稿『いちょうの葉』を読み解く,(5)鎖国時代における日独の相互発見と文化交流,(6)ハーマンの「へりくだり」の概念,レッシングの「同情」の概念および日本の対話形式から異文化間コミュニケーションの構成原理を析出。3.上記を踏まえて,本構想の「発信型ドイツ語圏文化学」を歴史的および理論的に根拠づけた。4.日本を語ったドイツ語のテクストに基づいて「日本を語るドイツ語」の収集と整理を図った。しかし,その資料となる文献が当初に想定したよりも遙かに多いことが判明したので,これについては改めて大がかりな研究プロジェクトが必要と判断した。
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