本研究においては、日本語諸方言における子音音素の近似統合状況に関して、研究代表者による調査資料が蓄積されている琉球諸方言を中心にして、主として以下の3点について標記研究を遂行した。 1)既存の音声資料の整理と分析及び新たな臨地調査による資料の補完と分析 2)近似統合に関する仮説作成・修正と母音音素への拡大 1)においては、これまで蓄積した音声資料に加え、琉球方言調査経験を有する調査補助者を依頼して、以下の地点の臨地調査を行った。まず、奄美諸方言の中で子音音素の近似統合状況が古くは岩倉市郎によって報告されている北奄美北端の喜界島町方言をとりあげて、島内5地点の臨地による綿密な音韻調査と、DATによる高音質なディジタル録音をおこなった。次に、既に資料を有している奄美大島(名瀬方言)をはさんで、北奄美南端の瀬戸内町4地点の臨地による音韻詞査と、DATによる高音質なディジタル録音をおこない、標記課題に関する基礎的音韻資料を作成した。 2)に関しては、標記研究課題を、子音音素の近似統合状況と歴史的に緊密な関係にある母音音素の統合・対立状況と連動するように拡大して仮説の検討を行った。喜界島方言の臨地調査による成果として「奄美諸方言における中舌母音の歴史的重層性」『国語学研究40』を執筆した。また、瀬戸内町方言の臨地調査の成果として、「北奄美周辺方言におけるs・z・c中舌母音拍の多様性」(日本音声学会第307回研究例会)を発表した。
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