研究概要 |
本報告書は4つの部分からなる。第1部「対照研究について」,第2部「現代日本語の「た」をめぐって」,第3部「テンスの有無と文法現象」,第4部「インタラクションの文法」。 第1部では,井上が言語研究における「言語の対照研究」の役割について述べた。 第2部では,日本語の「た」の,いわゆるパーフェクト用法,ムード用法(発見)について考察した。井上と定延によれば,「た」の基本的な機能は「過去(発話時以前)」ということの表示のみであり,パーフェクト的,ムード(発見)的な意味は,いずれも語用論的に生ずる含みである。定延は議論の中で「情報のアクセスポイント」という概念にもとづく新理論を提案している。 第3部は,文法カテゴリーとしてのテンスの有無が持つ文法論的な意味について考察した井上の論文を集めた。井上によれば,日本語と中国語の次の違いは,日本語にはテンスがあるが中国語にはテンスがないという類型論的な違いに起因する:(1)アスペクトの基本的性格,(2)「のだ」文と"(是)…的"構文の使用制約,(3)仮定の接続表現を用いる動機づけ。 第4部は,認知主体(話し手)と環境とのインタラクションと文法との関わりについて論じた定延の論文を集めた。この中で,定延は,いくつかの文法形式が,世界に関する話し手の「知識」というよりは,話し手の「体験」を描写するために用いられることを指摘している。分析された現象は以下のとおり:(1)空間的な分布を表すように見える日本語と中国語の頻度副詞,(2)存在文における格助詞「で」の使用,(3)「発見」を表すように見える「た」,(4)とりたて詞「ばかり」の意味的特徴,(5)接続助詞「タラ」に続く主節の意味的制約,(6)日本語の感情表現の意味的特徴長
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