研究課題
基盤研究(C)
ロシアとポーランドの司法制度は、ここ20年ほどのあいだに、ソ連モデルから脱却し、大きく変貌した。権力分立原則のもとで「裁判権」の観念が確立された。裁判権の確立は、一方で、ソ連モデルのもとでは存在しなかった行政訴訟、経済訴訟、憲法訴訟の諸制度が導入され、「収縮」していた裁判所の管轄は飛躍的に拡大したこととして、他方、裁判官の独立を担保するためのメカニズム、とりわけ、裁判官自治組織が決定的に関与する人事手続が設けられたこととして現われた。しかし、両国ともに、市民の裁判所に対する信頼度は著しく低く、その意味で、司法制度はある種の危機的状況にある。それは、裁判へのアクセスの困難、訴訟遅延、判決の公正さに対する疑い、判決の効果的な執行の不十分さなどが原因となっていると解釈される。これらの問題は、一面では、司法制度全体に対する予算投入の不足によるところが大きいが、それには解消できない論点もある。とくに微妙な論点は、裁判官の質と弁護士の量の確保である。いずれについても問われているのは、法律家の自治のもつ機能である。裁判官について言えば、ポーランドでは、裁判所行政における権限を維持している司法省と裁判官自治とのせめぎ合いがあり、そのなかで、裁判官の任意団体が、人権擁護団体とも提携して仕事の質を向上させることをめざす自主的な運動を展開していることが注目される。司法省が裁判所行政から完全に撤退したロシアでは、裁判官自治組織による裁判官の人選と淘汰に問題が集約されている。弁護士については、逆に、ロシアでは弁護士間競争環境を作ることをめざす司法省の政策により弁護士自治のあり方が大きく揺さぶられるという経緯を経て、弁護士制度が再編された。これに対して、ポーランドでは伝統的な弁護士自治がいっそう強化されて自己完結的な人事メカニズムが作られた結果、その閉鎖性が社会的批判を受ける結果になっている。
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法曹の比較法社会学(広渡清吾編)(東京大学出版会)
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Comparative and Socio-Legal Study of Lawyers, (Seigo HIROWATARI, ed., University of Tokyo Press)
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