研究概要 |
ウェストファリア・パラダイムは国際社会を抽象的な国家を主体とする社会として捉える。近代国際法はそれゆえ国際法を主権国家間の法と定義する。19世紀後半以後,現代国際法はすでにこのパラダイムを修正・変更してきたが,国際社会のグローバル化はこのパラダイムそのものの妥当性を問題化してきている。そこで本研究では以下のことを行った。第1に,国際法のグロティウス的伝統をめぐる国際法学・国際関係論の議論を踏まえながら,国際法的規律内容およびその機能の変化をウェストファリア・パラダイムの変容との関係において考察した。第2に,グローバル化のなかでの領域主権概念の意義の変化を,領域支配の実効性と正統性をめぐる問題として考察するために,(1)植民地主義の時代における領土拡大を正当化するために使われた国際法の諸規則を検討し,(2)それとの比較においてとくに植民地独立後の領土紛争・領域画定紛争における最近の裁判所の判決法理を検討し、近代国際法の原理と現代国際法の原理の違いを考察した。第3に,国際組織の介在する法過程の特質を,ガバナンス論やレジーム論を踏まえつつ、新たに生成する国際法の規範内容の変化から読み取ることを試みた。第4に,国家中心的な近代国際法との比較において,グローバル化した国際社会における規範形成・実現における私人や私企業・NGOなどの役割を検討するとともに,人権規範の発展,難民,避難民,先住民,犯罪人引渡しと国際刑事協力の発展などにあらわれる現代国際法の変化が,ウェストファリア・パラダイムにどのような修正を迫っているかを検討した。第5に,こうした法の漸次的な変化に対応するために,ウェストファリア・パラダイムによって立つ実証主義国際法論によってたつ国際裁判所が実定法を解釈適用する際にどのような概念を導入して時間を制御しようとしたかを,衡平の概念や暫定措置の運用などについて検討し,近年における国際社会の司法制度化,国際法廷の多様化がもたらす問題についても考察した。
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