フランス法のPACSを中心に、フランス家族法の研究を行った。資料の収集と収集した資料に基づく研究が基礎であったが、フランス本国の法学者が来日した機会に共同研究を行ったことは成果も大きかった。フランスでは一般に家族として意識されるのは核家族であり、対比されて議論されるのは「婚姻家族」と「自然家族」の相違である。しかし日本で一般に家族として意識されるのは、共同生活者の団体であり、対比されて議論されるのは、「婚姻家族」と「直系家族」の相違である。日本において事実婚はまだ先端的な事象にとどまっている。13年度当初に来日したマゾー・ルヴヌール教授は、東京でフランスのPACSと婚姻を対比した報告をし、筆者は、その報告が日本法に対して持つ示唆と意味をジュリスト紙上に発表した。また秋には、日仏共同研究集会が東京と北海道で開催され、数名のフランス人法学者が来日した。共同テーマが「家族」であったので、筆者は主報告者として「家族の概念」について報告し、その報告はフランスの雑誌にその後、掲載された。フランスの「婚姻」が配偶者間に重い権利義務を課すものであるために、それらの拘束を嫌う当事者が婚姻を選択しなくなり、事実婚が社会の中に一定の層となって存在するようになった。PACSは、同性愛者と事実婚当事者に、拘束性の弱い結びつきを法的に準備するものである。カップルの存在を公認する意味はあるが、婚姻ほどに当事者を守る機能は持たない。 日本の婚姻の法的効果は、フランス法のPACSに非常によく似ている。すなわち弱い拘束性と軽い権利義務である。マゾー・ルヴヌール教授が危惧するように、PACSは妻や子という弱い当事者に十分な保護を与えられない可能性がある。そしてそれは日本の婚姻法が弱い当事者に保護を提供できなかったことと対応する。
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