研究概要 |
本研究は,「労働者の個人化・多様化と労働者の利益代表制度」と題して,各国の労働者代表制度(労働組合および従業員代表組織)に関する法制度・法理論の研究を基に,労働者代表制度の類型化を行い,その上で,各類型の典型例の特徴を比較することを通じてわが国における従業員代表制度の基本的問題点について検討を行った。 各国における労働者代表制度は,労働組合が団体交渉プロセスを通じて労働者の利益の代表を図る類型(排他的交渉代表制度のもと,交渉単位内の労働者の過半数の支持を得た組合が当該交渉単位の全ての労働者を代表するアメリカがこの典型である)と,企業ないし事業所の単位において設置され,労働者の利益の代表を図る一方で,企業・事業所における労使の共同利益の増進をも重要な目的とする類型(事業所組織法に基づき各事業所において事業所委員会が設置されることとされているドイツがこの典型である)とに大別することができる。両者の比較を通じて,いずれも事業所等の全ての労働者を強制的に代表する権限を有すると共に,少数派の利益が反映されるための利害調整のメカニズム(排他的交渉代表に課される公正代表義務,比例選挙原則に基づく事業所委員会委員の選出)を有するとの共通点が見出されると共に,労働者の利益の代表,労使の共同利益の増進という目的の重点の違いから,アメリカでは労働者代表に対して使用者からの自主性が厳格に要求される一方で,ドイツにおいては事業所委員会に対する使用者の種々の援助が法律で義務づけられているという相違点も明らかとなった。以上の検討から,わが国の労働法制において規定されている過半数代表制・労使委員会制度について,多様化する労働者の利害調整メカニズムの整備・労働者代表に対する使用者の関与のあり方の点からの更なる検討が必要であるとの結論を得た。
|