今年度これまでに行った研究は次のとおり。 第一に、刑事立法関連の個別研究をさらに進めた。特に、改正少年法については、その研究成果の一部を、大阪市立大学インターネット講座の「少年法(2)(3)-改正少年法の内容と問題点(1)(2)」にまとめた。そこでは、改正の背景、改正法成立の経緯と改正の内容、改正法の運用状況、そして改正法へのコメント、といった項目ごとに、グラフなども用いながら、詳細に論じた。 第二に、広く刑事法の現状の問題点や立法提案の把握に努めた。『刑事法演習』の原稿作成に当たり、インターネット犯罪対策の現状、サイバー犯罪条約の背景・内容、刑法・刑事訴訟法の場所的適用範囲と各国の対応、通信傍受法と口頭会話の盗聴の可否、職権濫用罪の運用状況と解釈問題、付審判請求手続きのあり方・立法提案等に関する数多くの文献に当たり、どこに問題があり、どのような改革の向がありうるかについて吟味した。 第三に、イギリスの立法のあり方の検討をさらに進めた。特に警察不服審査制度の改革については、さらに文献を集め、検討を加えた。なお、昨年の自衛隊法改正で設けられた防衛秘密漏示の罪について論文を速やかに発表する予定であったが、今年度になって、組織的犯罪に関する共謀罪創設の動きが起こり、防衛秘密漏示の罪の「共謀罪」の性格についても詳細な検討が必要になったため、実現できなかった。今後の組織的犯罪に関する共謀罪創設の動きをにらみつつ、またイギリスの共謀罪のあり方をも視野にいれながら、日本における「共謀罪」の性格を検討していきたいと思っている。なお、本来なら本研究を継続していくところであるが、今年9月半ばからイギリスに在外研究に出ることになり、残念ながらこの科学研究費助成研究を中止せざるをえなくなった。しかし、在外研究中も、刑事立法のあり方の研究を続けていきたいと考えている。
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