研究概要 |
本研究は,『法学講義』から『国富論』に至るスミス信用論の歴史的な形成過程を,同時代の金融・経済問題と関連づけながら考察することによって,自由と規制の両面を含み一見矛盾して見えるスミス信用論の重層的な理論構造の全体像を解明した。 スミスは,当初は,銀行の自由競争の効果を全面的に信頼していた。しかし1762-64年のスコットランド為替危機を経験して銀行に対する一定の法的規制が必要と考えるようになり,さらに1772年の金融恐慌とエア銀行倒産に直面して,銀行自身の適正な貸出政策の確立によって不良債権を出さないことがもっとも重要であると確信するにいたったのである。こうしてスミスは『国富論』においては,金融システム安定化のために,銀行の自由競争と政府の法的規制と銀行自身の適正な貸出政策の3つがすべて必要であると主張するようになったのである。 また,本研究では,スミス信用理論を「市場と政府」という経済思想の一般的な枠組みの中で考察して,スミスが総需要不足や金融不安定性の認識において同時代のステュアートや後世のケインズとも共通する問題認識を持っていたことをあきらかにした。 さらに,本研究は,スミス信用論をステュアート,ヒュームなどの同時代の経済学者や19世紀の通貨学派・銀行学派の理論とも比較して,それらの継承と批判の関係について考察した。
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