研究概要 |
企業買収での非対称情報問題を考察し,その下での望ましい法規制を検討した. 一般に,企業買収方法には,公開買付による株式取得と,市場での株式購入の2通りがある公開買付は,企業買収における全株主の取引条件を同一にすることから,イギリス・日本ではこれをルール化し,市場を通じた企業買収を規制しているその一方で,アメリカにはこの種の規制はないし,また日本でも現在,この規制の緩和が検討されている. 理論的に,公開買付を強いるルール(公開買付買収ルールとよぶ)の利点を挙げることは容易だが,市場取引を認めるルール(市場取引併存ルールとよぶ)の優位性は見出すのは難しい先行研究でも市場取引併存ルールの優位性が示されているが,これは,買収に拒否権を持つような巨大な支配株主が存在する状況に限られている. 本論文は,買収者のタイプ(企業価値を高めるか低めるか)が株主には分からないという非対称情報問題を新たに考察し,市場取引併存ルールの優位性を見出した(むろん,巨大な支配株主の存在を仮定しなくても,である)また,日本の現状と解釈できる状況において,市場取引併存ルールの優位性が強まることも明らかにした. わが国の強制公開買付規制は,支配株式の取得に公開買付を強制しながらも,市場取引による取得を認めている現実の法規制について議論を深化させるには,支配株式を売主から直接購入する取引(相対取引)の制限を再検討する必要がある今後は,例えば,市場価格による相対取引の可能性について検討したい.
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