(1)労災・職業病統計および職業別死亡統計に関する論議や研究 ILOのDecent Workプログラム(1998年)においては、とくにホワイトカラー層に多くみられる過重労働や職務ストレスに基因する新しい形態の健康問題に関する監視と政策の検討の必要性が指摘されている。1998年に開催されたILOの「労働統計専門家会議:労災統計」では、多くの参加者がストレスに起因する新しいタイプの労働関連疾患に関する統計の重要性を強調したが、この問題は、統計方法の困難性から最終報告には盛り込まれなかった。一方、職業別死亡統計は、過重労働やストレスとの直接的関係は把握できないが、職業別、男女別、年齢別、死因別死亡のような労働者の健康状態を比較できる有効な統計である。最近では、「EUの社会経済的健康格差に関する研究グループ」によって、職業別死亡に関する大規模な国際比較研究がなされてきた。 (2)ミクロデータの利用による北欧と日本の職業別年齢別死亡率比較 職業別死亡統計による日本とフィンランドおよびデンマークの比較研究を行うにあたり、公表データでは比較が不可能であるため、各国のミクロデータを利用した。比較の結果、従来の研究では言及されなかった新たな特徴を見出した。日本では、癌(悪性新生物)における技術職、事務職の20歳から64歳にいたるすべての年齢層・管理職の20〜34歳層での相対的高死亡傾向を把握した。デンマークにおいても、癌疾患による事務職の35〜44歳層、45〜54歳層および55〜64歳層において相対的高死亡傾向が観察された。また、フィンランドの管理職の25〜34歳層においても死亡比は相対的に高かった。これらは、ホワイトカラー層の職務ストレスと関連する健康破壊を示唆している。次の課題は、これらの傾向が他の国にも共通するものであるかどうか確認するために、比較地域を拡大することである。
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