研究概要 |
グローバル・エコノミーの形成の中で,これまでのホッブス的,カント的,グロチウス的モデルは国際関係の有効な説明力を失い,それに代わる有効な国際関係の概念化と適切な政策の提言が妨げられている.「冷戦」が終焉したにもかかわらず「文明の衝突」テーゼが生じるような国際紛争の形成や不安定な国際経済関係はその証左である.そこで,本研究では, 〔1〕国家(State)が権力の集中・系列化によって近代における唯一のジッペ(Sippe)として位置づけられること(ホッブス的側面の承認),同時に市場はグローバルな普遍性を有すること(リベラル=カシト側面の肯定)を明らかにした上で,それら2つの側面が自己完結的とはなりえないことを明らかにし,したがっで現代のグロチウス的国際関係観とも言うべきヘドリー・ブルやマーティン・ワイトの「国際社会論」を「国際公共財」概念の導入によって拡張し,グローバル・エコノミーの安定にとって国際協調の種々の形態による国際公共財供給システムが不可欠であることを明らかにした.なお,こうした考察の延長上に個別研究として,国民(nation)とナショナリズムに関する政治経済学的考察を展開した. 〔2〕グローバル・エコノミーにおいては,一方で国際協調ゲームに参加するヘゲモンの複数化などが生じ,他方では「国際平和・国際通貨体制・自由通商体制」といった伝統的な国際公共財,第2次大戦後に追求されるに至った「完全雇用・反インフレのためのマクロ経済協調」に加えて,資源保護,環境保護,などの新たな国際公共財供給の課題が生じていること,またグローバル化の進行が「景気循環の復活」をもたらして新たな課題をマクロ経済協調に課していることを明らかにした.なお,これに関連した個別研究として,比較生産費原理に基づく開放経済体系がマクロ経済均衡を達成する条件を多部門純粋労働経済モデルに基づいて明らかにして国際経済学が看過してきた領域での研究を先導した.
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