有限記憶に基づく消費者行動をモデル化し、それに基づく広告競争を分析し、その経済厚生を、一種の超越的効用によって評価することを目的とする。 一般的なモデル分析として、消費項目そのものを記憶の対象とし、広告が忘れられた項目に対する想起作用を持つ情報として作用する状況を設定する。このような設定が意味を持つような設定として、消費者の静学的選好が、動学的に変動するタイプとなるような、消費選択に的を絞る。とくに、いわゆる耐久財型選好をもつ場合について、限界的な項目を対象とするモデルを考えた。そのような状況において、複数の広告は一定比率で一方のみが有効となるような場合についての、価格をも選択肢に含む広告競争を調べた。この場合、消費者の記憶が完全である場合の選好を、厚生基準に取ることが自然となる。静学的分析では、Shapiroが挙げた、Dixit&Normanの厚生基準への批判に相当する状況が出現することが確認された。この設定の下での動学分析は、消費者の記憶が前期の消費に依存する慣性効果を仮定すると、特異解を除いては、十分には展開ができない。 これをうけて、一企業のみの広告行動を調べた。この場合、設定として、政治的活動に対するNGO等のキャンペーン競争のモデルとして分析を行った。この場合、慣性効果のひとつの影響として、広告水準の動学パターンは振動型となる。 別の試みとして、消費者の選好をランダム型とし、記憶は毎期独立、かつ、価格は所与の場合の企業間広告競争モデルの動学分析を、マルコフ完全均衡により行った。この場合でも、やはり振動型の解が得られる。さらに、比較静学としては、一般的な答えを出せないが、数値分析をも援用した結果、広告の想起作用が非効率になるにつれて、厚生水準が下がるというパターンが確認できた。
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