研究概要 |
中国経済の躍進は著しい。本研究は分析対象を上海製造業に絞った上で企業の財務データを用いた実態分析によって中国経済の強さの秘密を明らかにしようとする試みである。 アジア経済危機をはさむ96〜99年に,上海製造業では国有企業が急減し,外資系企業や集団所有企業などが急増するというドラスティクな変化が生じ,わずか3年の間に工業生産の主役は,国有企業を中心とする国内企業から外資系企業へと交代した。産業別では,労働生産性と生産性上昇率の高い重工業に比重が移り,特に金属製品と機械産業からなる基幹産業は順調に拡大した。 本研究の特徴は,包絡分析法を用いて生産効率を計測し,既存の生産関数では十分に分析できない国有企業などの企業パフォーマンスを分析した点にある。主たる結果は以下の通りである。 1.企業の労働生産性を見ると,規模別では明確な傾向は認めにくいが,企業形態別では明確な傾向が認められることが多く,しかも資本装備率だけではなく生産効率が労働生産性の高さを大きく左右している。 2.国有企業や集団所有企業と比べて,外資系企業が飛び抜けて高い労働生産性を発揮しているが,これは圧倒的に高い資本装備率と相対的に高い生産効率によって実現されている。 3.多くの産業で国有企業や集団所有企業の労働生産性と資本装備率が上昇しているが,それでも外資系企業の労働生産性と資本装備率が圧倒的に高い点は変わらない。 4.個々の企業について労働生産性を被説明変数とし,資本装備率生産効率,企業形態別ダミーを説明変数として重回帰分析を行うと,全ての産業において生産効率は有意であり,資本装備率は99年の精密機械産業を除き有意であった。 資本装備率に加えて生産効率を重回帰分析の説明変数に入れると,自由度調整済決定係数は両年とも飛躍的に向上しており,生産効率の重要性が改めて確認できた。
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