1 実証分析のための計量モデルの開発 1990年代以降の日米におけるIT革命による社会構造の変化が労働生産性に与える影響を解明するために、資本ストックを情報処理機器やソフトウェアに関連した「情報関連資本ストック」と、その他の「一般資本ストック」とに分けて、コブ=ダグラス型及びより一般的な生産関数の推計を行い、日米とも「情報化パラドックス」が1990年代には見られなくなっているという有意な計量モデルを得ることが出来た。 2 日米のIT革命が労働生産性に与えている影響の比較分析 上記の計量モデルによる推計結果を用いて、日米のIT革命の進展に伴う資本ストックの情報化が日米の労働生産性上昇率に与えている影響を比較した。主要な結論は以下の通りである。 (1)日米の労働生産性決定式における情報関連資本ストックとその他の一般資本ストックとの比率のパラメーター推定値を比較すると、日本の数値が小さいことから、日本の方がIT革命による資本ストックの情報化に依存する割合がまだ低い状況にある。 (2)日米の労働生産性上昇率の決定要因を比較すると、日本の場合、雇用者一人時あたりの情報関連資本ストックの寄与率が低く、労働生産性の上昇率のIT化に依存する割合がアメリカに比べて低い。 (3)日米の情報関連産業労働者比率を比較すると、日本の比率が低い。 3 景気回復のための日本の政策課題 上記の日米比較の結果から、1980年代のバブル崩壊による長期停滞が続く日本では今後資本ストックの情報化を一層推進するとともに、労働市場における情報関連産業への労働シフトが十分に行われるような構造改革が是非とも必要であると考えられる。しかしながら、アメリカが2002年にはITバブル崩壊による株価の下落によって、設備投資や個人消費が減退し、IT不況と言われるような事態が進行し、ニューエコノミー論が揺らいでいる状況を考えると、IT革命の進展による情報化に過大の期待を抱くことは禁物のように思われる。 4ホームページ上での研究成果の公開 本研究の分析結果については、ホームページ(http://home.hiroshima-u.ac.jp/yukuo/kaken2003.pdf)上で公開しているので参照して欲しい。
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