研究概要 |
人口1人当たり所得水準が日本の10分の1に達しないような大多数の開発途上国の経済は,雇用の上では多くを農業・漁業に依存しており,その労働生産性は低い。また,化学肥料,農薬など農業投入財の増加や灌漑整備によって土地生産性は向上したものの,農業適地や熱帯林など農地利用できる余地,すなわち農業フロンティアの制約が強く,耕地の拡大が困難になり,人口増加も加わって,人口1人当たり耕地面積は縮小している。さらに,外資導入,輸出増加を貴重とした工業化は進展したが,その工業化の連関効果によって生み出された農外雇用機会は,都市や工業団地における製造業,商業,サービス業などに集中している。つまり,米作やシルク生産などの地方における小規模産業あるいは個人経営体に対しては,連関効果は小さく,都市・地方間の地域格差は是正されているとはいえない状況にある。しかし,開発途上国の地域コミュニティでは,少ない雇用機会のなかでメンバーへの稀少な雇用機会の分与,すなわちワーク・シェアリングが行われ,地域コミュニティの資源エネルギーを収奪的に利用したり,メンバー間で過当競争をしたりすることを避ける傾向が指摘できる。彼らは,雇用機会の確保,所得安定化を優先し,資源エネルギーの節約,ローカル・コモンズ管理に配慮している。 他方,日本の政府開発援助(ODA)は運輸・通信,エネルギーなど経済インフラ整備に関わる大規模プロジェクトに集中し,現地住民に直接寄与する小規模な援助は少ない。また,財政再建など国内事情を優先するために,援助疲れにも陥っており,その他のDAC諸国のODAはもちろんNGOによる援助も頭打ちの状態にある。しかし,現地住民のローカル・コモンズを保全する活動に対する草の根の環境ODAは,開発途上国にあって個人経営体が広範に存在することを踏まえれば,有効性が高いと考えられる。
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