研究概要 |
本研究の目的は、近世日朝貿易の内容を数量的に、かつまた貿易に従事した人々の動向を微視的に把握することにある。このため、国内外に散逸する膨大な宗家の記録類を収集し、分析することが研究の主眼である。調査は、下記の6機関で実施した。 1,長崎県立対馬歴史民俗資料館 2,国立国会図書館 3,慶應義塾大学図書館 4,東京大学史料編纂所 5,東京国立博物館 6,韓国・国史編纂委員会 史料収集は、一部、筆記による以外、35ミリおよび16ミリのマイクロフィルムに撮影し、現像後にプリンターによる焼付け、ファイル製本、分類・整理作業を行った。 収集資料の内容は、日朝貿易を管理した対馬藩側の役人である代官や勘定方、あるいは藩財政の指示を行う藩庁関係、朝鮮方関係、輸送担当の船関係の記録等々、多岐にわたる。 大量の史料を比較検討した結果、分析対象とする帳簿類を選び出し、官営貿易と私貿易の規模と藩の経営方針を探った。選出した史料は、まず『御身代出入帳』(長崎県立対馬歴史資料館所蔵)により、対馬藩財政にしめる官営貿易および私貿易の全体像をさぐった。また私貿易については、『御商売御利潤並御銀鉄物渡並御代物朝鮮より出高積立之覚書』(国立国会図書館所蔵)と、これを補充する『(朝鮮向御用覚書)』(韓国・国史編纂委員会所蔵)により、私貿易全盛時代の状況を分析し、各商品別の買元値と売値の比較検討により、多角的な視点から考察を加えた。これら微視的な帳簿分析により、近世全期間の対馬藩の貿易経営は、私貿易偏重タイプ(近世初期〜中期)と、官営貿易の石高制編入タイプ(近世後期)へと変貌していくことを確認できる。
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