研究概要 |
この研究の目的は,東京証券取引所に上場している株式の発注および約定を記録したティック・データを分析し,取引される株式の属性,市場取引コストを定めるマーケット・マイクロストラクチャー上の特性,およびマーケット・メーカーとして行動していると考えられる証券会社自己部門の,市場提供ないし流動性提供コストの回収メカニズムを明らかにすることである。 成行注文は即時の執行(売買成立)を求めている注文という意味で市場流動性を需要する注文,指値注文は逆に流動性を供給する注文である。指値注文は成行注文に比べて有利な価格(指値)での執行が期待でき,投資家は,それまでの取引状況,現在の指値注文の板状況などを見てどちらの形態で注文するかを選択する。この選択において,注文が有効である期間中に執行される可能性がどれくらいあるかといった,指値注文の執行確率は重要である。50銘柄1ケ月間のデータを用いてこの執行確率を推定した結果を国際学会で報告し,各国の参加者,特に東京と同じマイクロストラクチャーを持つ香港市場の研究者と意見交換を行った(Omura, Tanigawa, Uno[2001],宇野他[2002])。また,上記のようなマイクロストラクチャーと流動性の関係を谷川[2002]として展望した。 さらに,証券会社などによる流動性提供が必要となる,大口かつ複数銘柄の一括取引であるバスケット取引について計量分析を行った。これらは,ランチタイム(前場の取引終了後,後場開始前)に前場の価格や取引状況を見て出される注文で,複数の証券会社が価格(ベーシス)を提示して注文獲得競争をする。注文を獲得した証券会社は,顧客との間で成立した約定により形成されたポジションを,その価格リスクを避けるため後場を利用してアンワインドする。バスケットに含まれる銘柄のザラ場における流動性の大きさがバスケット注文獲得競争で提示される価格に大きな影響を及ぼすことが明らかになり,その結果を取りまとめ中である。
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