1990年代に入り、1994年メキシコ通貨危機、97年東アジア危機をはじめ多くの地域経済に広大かつ深刻な影響を与えた多くの通貨危機が生じている。このような90年代の通貨危機に関しては二つの見方が存在する。まず第一の見方によれば、これらの通貨危機においては、実質通貨価値の増加問題、経常収支の悪化等の諸ファンダメンタルズの悪化という問題が存在しており、通貨危機はこれらの根本的問題点によって引き起こされたものであり、その通貨危機の深刻さもこれらの要因によって十分説明可能であるとされる。これに対して第二の見方によれば、90年代通貨危機においては金融パニックが本質的役割を果たしていたことが強調される。このような「自己実現的期待通貨危機モデル」に基づいた実証研究は極めて少ない。本研究は90年代の通貨危機に対して、この自己実現的通貨危機モデルの視点からの実証分析を試みようとするものである。より具体的には1994年メキシコ通貨危機をこのような視点から分析したSachs-Velasco-Tornellモデルを用いて、1997年東アジア通貨危機、1999年ブラジル通貨危機、2002年アルゼンチン通貨危機の詳細な分析を行った。東アジア通貨危機には、「自己実現的通貨危機」的性格が強く観察されるが、ブラジル通貨危機、及びアルゼンチン危機においてはSachs-Velasco-Tornellモデルの説明力には限界があることが明らかとなった。そこで次に、通貨危機の「伝染効果」において重要なファクターである「Financial Contagion」現象に対して、共和分分析によるアプローチを試みた。東アジア、南米のいずれの場合も90年代後半により強い金利の「Co-movements」が観察されることが明らかとなった。これらの研究は、まず広島大学経済学部紀要に公表し、その後改訂を経てレフリー制雑誌に投稿予定である。
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