研究概要 |
この期間の研究目標として,多変数保型形式の持つ整数論的性質の解明を挙げた。 具体的には次の2点であった。 (1)Siegel-Eisenstein級数のp進的性質を明らかにする。 (2)標数pのmodular形式の性質,特にそれらの環のなす構造の決定。 これらの目標に対して,研究期間内に得られた結果について報告する。 (1)については,既に前研究期間で発見された現象,すなわち,Siegel-Eisenstein級数がもつp進的性質の一般化が問題であったが,二つの方向で拡張できることが確認できた。ひとつは,本来のSiegel modular群の場合に既に得られている結果を,一般のweightの場合に拡張する試みで,次数が2の場合は任意のweightに拡張できるというもので,これは桂田氏との共著の論文としてJournal of Number Theoryに掲載された。ふたつ目は他のmodular群の場合に同様の現象が見られるというもので,Hermite modular群の場合にp進的性質の存在を確認した。この結果は次の意味で重要である。 それはSiegel modular群の場合のp進的現象が特有の現象ではなく,背後に統一的に説明されるなんらかの理論が隠れている可能性を示唆するからである。(2)についても二つの進展があった。ひとつは2次のSiegel modular形式の場合に,残されていたp=2,3の場合に,その構造を決定することができたことである。二つ目はHilbert modular形式の場合に同様の結果を得ることができたことである。判別式が5と8の実2次体に対するHilbert modular形式に対して標数pの場合の環の構造を考察し,特別な場合にその生成元を与えている。この結果はRevista誌に掲載されることが決定している。
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