研究概要 |
トーラス等のコンパクト有向曲面上の同相写像で,恒等写像とイソトピックなものについて考察した。この写像の周期点の位相的性質について,不動点指数および組ひも不変量の2種の位相不変量を用いて調べ,特に不動点について以下の成果を得た。 1.不動点全体の集合に組ひも不変量を用いて,ある関係が導入できることを示し,さらに,それが同値関係となることを証明した。 2.不動点類の不動点指数は位相不変であることを証明した。この不変性は,与えられた写像の不動点の不動点指数を求めるための一つの手段を与えるものとして有用である。 3.同値類の不動点指数は1以下であることを示した。 4.3で得た不動点に関する制限条件を用いて,不動点の同値類が2個以上の不動点を含むならば,それら不動点のうち少なくとも1個は不安定であることを示した。この結果は,不動点の不安定性を不動点全体の位相的性質から導いたものであり,安定性の問題と写像の大域的な位相的性質との関連を与えている。 5.不安定な不動点を含む同値類全体の個数は,同値類全体の個数の半分から曲面の種数を引いた値よりも大きいことを証明した。なお,3〜5の結果はいずれも,1つの例外的な場合を除く。 6.1つの元しか含まない同値類が存在し,さらにその元の不動点指数が1であるならば,写像の位相エントロピーは正値を取ることを示した。これは,不動点の位相幾何的性質が,写像の力学系的性質の一つであるカオス性と関連があることを示している。
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