研究概要 |
ディリクレによる「2整数が互いに素になる確率=6/\pi^2」という密度定理を,通常の確率論における大数の強法則に翻訳し,極限定理における次のステップである中心極限定理スケーリングを考え,そしてさらにその奥にある(はずの)極限定理を見出す試みをした. 我々の基礎とする確率空間は(Zhat,\lambda)(ただしZhat(ゼットハットと読む)は有限整アデール環,\lambdaはその上のハール確率測度)とし,アデールの組(x,y)\in Zhat\time Zhatが互いに素のとき,1,そうでないとき0を返す関数をX(x,y)とする.このときS_N(x, y)=(1/N^2)\sum_{m,n=1}^N X(x+m,y+n)はN\to\inftyのとき,6/\pi^2に概収束する.これが大数の強法則である. 次に中心極限定理スケーリングN(S_N(x,y)-6/\pi^2)を考える.Nを無限大にもっていく仕方に応じて,即ち,部分列{N_k}ごとにこれは収束し,その極限は{N_k}から定まる商空間Zhat/\simの元によって完全にパラメトライズされる.とくに,N(S_N(x,y)-6/\pi^2)はN\to\inftyのとき収束しない-中心極限定理は成立しない-のである! ところが,この収束をCes\`aroの意味で捉え直す,即ち,相加平均の極限として捉えるならば次のことが分かった: (1/N)\sum_{n=1}^N n(S_n(x,y)-6/\pi^2) \to U(x)+U(y) in L^2. ここでU(x)=\sum_{u=1}^{infty}(\mu(u)/u)((x\mod u)/u-(u-1)/2u) in L^2である(\mu(u)はメビウス関数).このUがどのようなものであるかを探るのが本当にやらねばならぬ仕事となる.本研究で分かったことは 「Uの分布は対称で,L^{infty-}に属する」 である.(平均ゼロの)正規分布もこの性質をもっているが,「Uの分布は正規分布とは似て非なるものである」だろうという予想を立てている.もしこれが成り立つ(正しい)ならば,我々はこれを非中心極限定理とよびたい. もう1つ,部分列{N_k}が商空間Zhat/\simの中でN_k \not=0,N_k\to 0ならば N_k(S_{N_k}(x,y)-6/\pi^2) \to 0 in L^2 となってしまう.自明でない極限を取り出すためにN_k(S_{N_k}(x,y)-6/\pi^2)の標準偏差で割るというrenormalizationを施すと,「これはk\to\inftyのとき標準正規分布に収束する」だろうという予想も立てている. これら2つの予想を確かめる(証明する)までは行かなかった.ただ,これら予想を立てた1つの根拠として,数値実験による検証を与えた.
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