研究概要 |
数理生態学で使われるいくつかの非線形反応拡散方程式系の解の挙動について,以下のような研究成果を得た.(1)拡散項をもつLotka-Volterraの3種競争系モデルを考察した.反応項の係数を拡散項のないときのダイナミックスがリミットサイクルになる場合とし,初期条件をある狭い領域に3種の生物が同時に少数個体侵入してきたとして,侵入後,3種の生息分布域がどのように拡大していくかの観点から,解の挙動を明らかにした.結果,リミットサイクルに示される3種の勢力の入れ替わりに対応して分布域が拡大していくが,3種が侵入した後ではほぼ一定状態の共存を示す.更に,その一定状態は時間がたつとカオス的変動へと発展することを明らかにした.また,分布域の拡大速度についても理論的解析を行い,パラメータによる近似式を得た.(2)移動分散のみをする分散個体と増殖のみをする増殖個体について,増殖においては少数個体では増殖が難しくなるアリー効果を導入した非線形反応拡散方程式系を考察した.進行波解の存在の解析から,これらの2つの状態間の遷移確率が等しい場合と増殖状態から移動状態への遷移確率が極端に少なく分散個体がほとんどいない場合について,分布域拡大速度の推定式を与えることができ,その推定式はモデルの数値計算による結果と広いパラメータ領域でよく一致することを示した.また,アリー効果のない増殖では分散個体が極端に少なくなっても拡大速度が大きいままであるが,アリー効果により拡大速度が小さくなることを明らかにし,数理生態学の分野にも新しい知見を与えることができた.(3)単独方程式ではあるが,拡散係数と反応項が空間的に周期的な場合について,任意の方向の平面波の周期的進行波解の伝播速度をパラメータの関数として求めることができ,それによって,原点から拡がっていく場合の分布域の先端の拡大速度と分布パターンを求めることができた.
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