研究概要 |
平成13-14年度に行った研究は,次の三つに大きく分けることが出来る: 1.リーマン面上の単純分割閉曲線の性質を解析的に特徴付ける. 2.タイヒミュラー空間を大域実解析的に角度変数で表現する. 3.角度変数で,タイヒミュラーモジュラー群(写像類群)の作用を表現する. 私は,単位円板に作用する一次変換の幾何をその変換の平方根やトレースで特徴付けた.この考察から,リーマン面S上の単純閉曲線Lが分割か非分割かの判定を,Sを表現するフックス群Gの特殊線形群SL(2,C)への持ち上げを用いて行った.このように,位相的性質を解析的性質で特徴付けすることが出来る. 私は標識付きリーマン面上の測地線の交角からなる角度変数を新たに導入して,タイヒミュラー空間を大域実解析的に簡明に表現することを考察した.そして,代表的といえる穴あきトーラスや種数2,3の標識付きリーマン面から得られる(1,1),(2,0),(3,0)型タイヒミュラー空間の場合に,角度変数のみの変数空間は解析しやすい集合であることを示していた.角度変数は標識付きフックス群の生成元やこれらの積の軸の交角に対応している.双曲幾何を用いることで,これらの軸の配置は非常に高い「対象性」を持つことが分かった.そして,このような一次変換の幾何を調べることから,角度変数の関係式や情報が多く得られた. 次に,タイヒミュラーモジュラー群を角度変数のみで表示することを目指し,次の考察を特に行った: I.タイヒミュラーモジュラー群を,軸から決定される特別な双曲多角形を別の双曲多角形に写す作用として調べる. II.タイヒミュラーモジュラー群を表示する角度変数と長さ変数の関係を調べる. 例えば,(1,1)型タイヒミュラーモジュラー群の場合には.次を示した:(1,1)型つまり穴あきトーラスを表現する標識付きフックス群の標準生成元系を(A, B)とする.A, B, BAの軸で決定される双曲三角形Tを別の軸で決定される双曲三角形に写す作用で,(1,1)型タイヒミュラーモジュラー群の元の作用を理解出来る.そして,このTの内角に対応する三つの角度変数のみで,(1,1)型タイヒミュラーモジュラー群の元を表示出来る.さらに,このTの三辺の長さの二倍が長さ変数に対応し,双曲三角法から,長さ変数による(1,1)型タイヒミュラーモジュラー群の元の表示も得られる.
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