研究概要 |
Ginsparg-Wilson関係式を満たす格子Dirac演算子をもちいたカイラル・ゲージ理論の位相的構造と,それが量子論において果たす役割について研究した.格子上の場の配位は,連続的に自明な配位に変形できるので位相的に自明な構造しか持ち得ないが,場の配位に滑らかさに対応する条件を課して,制限することで自明でない位相構造が入る.ゲージ場の場合は,カイラルな格子フェルミ場を結合させることで,場の配位空間の自明でない位相構造の影響をみることが可能となる. 量子色力学のような,ベクトル型の理論をoverlap演算子をもちいて格子上で定義した理論では,フェルミオン測度がカイラル対称でなく,ヤコビアンの形でアノマリーを生じる.overlap演算子は,ゲージ場の配位空間全体では定義されておらず,場の変動が緩やかな場合に対してのみ定義される.すなわち,理論が定義されている場の配位空間は,幾つかの連結成分に分かれている.われわれは,可換なゲージ理論の場合に,エルミート的Wilson-Dirac演算子のスペクトルの流れを数値的に解析し,滑らかとみなせる背景ゲージ場に対して,その位相荷の変化に応じて格子Dirac演算子の指数が変化することを確かめた.また,非可換なゲージ場において,カイラル変換に対するアノマリーを任意の次元で計算し,古典連続極限で,連続理論のカイラル・アノマリーが再現されることを示した. 滑らかなゲージ場への制限は,場の配位空間に穴のような欠陥を作り出す.われわれは,カイラル・フェルミ場を結合させて,場の配位空間の位相構造が及ぼす影響を調べ,Wess-Zumino-Witten作用の構成を行った.それにより,場の配位空間の一つの連結空間の中にも自明でない位相構造が実際に現れ,それがゲージ・アノマリーと関係していることを確かめた.
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