研究概要 |
本計画は、現実の自然界に対応するu, d, sの3種類のクォークの動的効果を取り入れた格子QCDシミュレーションを遂行するための各種計算技術開発及び実際のシミュレーションの実施を目的とした。主たる研究成果は次のとおりである。 (1)アルゴリズムの開発 u, d, s三種類のクォークを動的に扱うには、奇数フレーバーのフェルミオン系のシミュレーションが必要である。クォーク行列の逆を、多項式近似により表示する多項式ハイブリッドモンテカルロ法(PHMC法)が量も優れているとの結論に達し、その基礎付けを明確化すると共に、最適化プログラムの作成を行った。 (2)フレーバー数3の格子QCDの相構造 結合定数βと、クォーク質量を制御するκの二つのパラメータを取り、シミュレーションを行った。その結果、i)プラケットゲージ作用とクローバークォーク作用の組み合わせでは、格子特有の非物理的一次相転移が存在すること、ii)この相転移は弱結合側で消失するが、その点での格子間隔は約4GeV程度と極めて大きく、現実的なシミュレーションを行うには極めて重大な困難があることが判明した。また、ゲージ作用を改善した場合、(β,κ)面上での相図は滑らかである。 (3)フレーバー数3の場合のO(a)改善作用の決定 以上の研究により現実的シミュレーションには改善したゲージ作用を用いることが必要であることが明らかとなったが、この場合のクォーク作用のクローバー係数について、完全にO(a)項を消去するための値がフレーバー数3の場合は知られていなかった。従って、その決定をSchrodinger functionalの方法により行った。 (4)物理計算 以上の準備により、u, d, sクォーク全てを動的に扱うシミュレーションの準備が完了したので、物理計算を開始した。まず最初のシミュレーションとして、格子間隔が0.1fm程度の値に対応するようパラメータ値を推測した計算を行っている。現在急速に物理計算に重点を移しつつあり、ハドロン質量スペクトル計算を皮切りに、クォーク質量の決定、QCD結合定数の決定等、素粒子標準模型全体に取って重要なテーマの研究の推進を予定している。
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