研究課題
基盤研究(C)
RHICで進められている相対論的高エネルギー重イオン衝突実験により、衝突の初期過程にクォーク・グルオン・プラズマ状態が実現しているらしいことが次第に明らかになってきた。初期宇宙の物質創成メカニズムを解明するためには、解析をさらに進めてクォーク・グルオン・プラズマの熱力学的な特性を定量的に知る必要がある。そのためには、格子シミュレーションにより、素粒子の基礎理論QCDからの直接の情報と組み合わせた解析が不可欠である。この問題では、u,d,sクォークの対生成・対消滅効果を含めたN_F=3QCDシミュレーションが要求されるが、いくつかの困難から系統的な研究はほとんど成されていなかった。この研究では、クォーク・グルオン・プラズマの熱力学特性と相転移の性質を定量的に押さえることを目指して、N_F=3格子QCDの系統的研究を行う。準備として、sクォークを含む場合に使える厳密な計算アルゴリズムを検討して、PHMC法が有効であることを示した。試験研究により、連続極限への外挿を行うためには、格子作用の改良が重要であることを示した。さらに、N_F=3QCDの場合の非摂動的な改良係数を決定した。これらの結果を受けて、N_F=3 QCDの本格的研究をゼロ温度で開始した。格子間隔として0.122fm,0.10fm,0.007fmの3点を、それぞれ16^3×32,20^3×40,28^3×56格子でシミュレーションする。これまでに、格子間隔0.122fm,0.10fmでのシミュレーションが完了した。0.007fmのシミュレーションも進められている。これまでの研究で、クエンチ近似QCDの場合と違い、N_F=3QCDでハドロン質量スペクトルを正しく再現できることが確認された。さらに、クォークの対生成・対消滅効果を正しく取り入れることにより、軽いクォークの質量が20〜30%も小さくなることがわかり、現象論にもインパクトを与えている。これらと並行して、有限温度QCDシミュレーションによる熱力学量の効率的な研究方法を調べ、非等方格子が有効であることをクエンチ近似で示した。それを受けて、改良されたN_F=2QCDの場合の非等方係数を非摂動論的に決定した。
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