研究概要 |
低次元有限系磁性としての興味やナノ磁性材料への応用が注目される、鉄ナノチェーンおよびナノクラスターについて、その構造と磁性をノンコリニア第一原理分子動力学法を用いて理論的に研究し、下記の点について明らかにした。 (1)5量体から7量体のワイヤー状のFeクラスターでは,原子間距離を変化させたとき,磁性が,平行配向からノンコリニア配向へ(またはその逆へ)変化しうることを明らかにした.ノンコリニア磁性の発現には,単に3d電子間の相互作用だけでなく,4s電子等の非局在電子との相互作用(いわゆるRKKY相互作用)の寄与が関わっていることを示唆した.構造を最適化した場合,特に偶数クラスターで2量体化が起こり,2量体を単位として磁気モーメントが反強磁性的に配向することを明らかにした. (2)鉄直鎖クラスターを安定に存在させるために、5員環で両端の閉じたカーボンナノカプセルに鉄直鎖クラスターを内包させ、その構造と磁気モーメントを求めた。鉄原子1個を内包させた正12面体ナノカプセルはエネルギー的に安定でないが、2量体から4量体のFe直鎖クラスターはチューブ状のナノカプセル内で直鎖構造を保ったまま安定に存在することがわかった。裸直鎖クラスターでは強磁性な平行配向するのに対し、チューブ内での磁気モーメントは、反強磁性的(反平行)に配向することがわかった。磁気モーメントの絶対値は裸クラスターに比べてかなり小さくなる。 (3)現実の系では重要な問題となる酸化の問題について考えるため、鉄1量体から5量体に酸素原子を付着させた系の構造および磁気モーメントを求めた。酸素原子の数が鉄原子の数より少ない間は強磁性的な大きい磁気モーメントをもつが、酸素原子がそれ以上になるとFe-O間の超交換相互作用により鉄の磁気モーメントが反強磁性的に配向し、クラスター全体の磁気モーメントは0もしくは微小になる。また、鉄1-2原子に酸素原子を1-6付着させた負イオンクラスターの構造とイオン化ポテンシャルについても明らかにした。
|