研究概要 |
本研究の目的は,遷移金属界面のトンネル接合を流れるスピン分極電流,電極表面からの電界放出電流を,密度汎関数法の範囲で第一原理から計算する方法を開発し,興味ある系に応用することである。平成13年度〜15年度までの研究により,この目的を達成した。我々の手法では,線形化補強平面波基底(LAPW)とエムベッディング法を用いて界面領域の一電子Green関数を自己無撞着に計算する。具体的な計算過程は以下である。 1.フルポテンシャルLAPW法により,電極内部の3次元結晶の電子構造を決定する。 2.波動関数の転送行列から,電極の面方位に対応する電子の複素エネルギーバンド構造を計算する。 3.2で得られたBloch波,エバネッセント波から半無限電極と透過なエムベッディングポテンシャルを計算する。 4.半無限の2電極に挟まれた界面領域のGreen関数を,密度汎関数法の範囲で自己無撞着に決定する。 5.Landauer公式から,電極間を流れるバリスティック電流を計算する。ここで我々は同公式をGreen関数とエムベッディングポテンシャルの虚部から直接計算する公式を導いた。またLandauer公式では扱えない表面局在状態からの電流を計算できるように公式を改良した。 この方法を用いて,我々は次の系を解析した。 1.貴金属表面からの電界放出電流の面依存性を調べ,表面バンドからのトンネル電流が重要であることを明らかにした。 2.Cu/Co/Cuトンネル接合や,磁気ランダムアクセスメモリー(MRAM)として重要なFe/MgO/Fe接合におけるスピン分極トンネル電流を計算した。
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