研究概要 |
電子フォノン系でのポーラロン効果や超伝導などは,従来,フレーリッヒ模型やホルスタイン模型に基づいて理解されてきた.しかし,ヤーン・テラー結晶における電子フォノン複合系では関与する状態の縮退による内部構造のため,クォーク・グルオン系での閉じ込め問題に似た新しい様相を示す. さて,その状態の縮退による内部自由度は擬角運動量という概念で記述され,その擬角運動量の保存則が電子フォノン相互作用に強い制約を与える.そこで,その制約を露わに取り込んでハミルトニアンを具体的に書き下し,それをミグダル・エリアシュバーグ理論で解析して,特定のバーテックス補正しか許されないことを示した.このバーテックス補正の制限はヤーン・テラー・ポーラロンの有効質量がホルスタイン・ポーラロンのそれに比べて劇的に小さくなることを導いた.さらに,電子フォノン相互作用定数αが大きい場合,この有効質量増加因子がホルスタイン因子e^<2α>ではなく,(2/πα)^<1/2>e^αであることを明らかにした. 次に,エリアシュバーグの強結合超伝導理論の拡張という立場からバーテックス補正の超伝導転移温度T_cへの影響を調べた.その結果,バーテックス補正が重要になるほどにαが大きくなると,ヤーン・テラー・ポーラロンといえども有効質量が大きくなりすぎて,そのバイポーラロン超伝導では,とても高いT_cにはならないことが分かった.もちろん,それよりも小さいαでは,バーテックス補正そのものが必要ではなく,T_cの評価に関しては従来通りのエリアシュバーグ理論に基づいたマクミラン(あるいは,アレン・ダインス)の公式で十分であることも分かった.因みに,1次のバーテックス補正はヤーン・テラー結合では正確にゼロになるため,ヤーン・テラー系ではエリアシュバーグ理論の適用範囲はかなり広く,「ヤーン・テラー系での超伝導は他の電子フォノン系とは大きく違う」という従来の見方は否定された. この結果,超伝導における未解決の問題,すなわち,強結合電子フォノン系でバーテックス補正が無視できず,また,電子相関も重要になる場合の超伝導理論構築の問題では,ハバード・ホルスタイン模型をまずは考え直すべきであるという結論に達し,その立場から新しい試みを始めた.一つはバーテックス補正の取り扱い方に関する新しい一般的な手法の確立であり,その第一歩として電子ガス系における電子相関の取り扱いに成功した.もう一つは厳密対角化による有限サイト系の研究をマクロなサイト数の問題に拡張するもので,変分変位型ラング・フィルゾフ変換と一次元ハバード模型におけるリープ・ウーの厳密解とを組み合わせて,この問題を解いた.
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