研究概要 |
準結晶には通常の結晶と同じ弾性変形の他にフェイゾンと呼ばれる特有の変形の自由度が存在する。準結晶相から結晶相への間の構造相変態はこのフェイゾンの導入(自発的変形)と捉えることができる。本研究ではこのような相変態の理解を得るために、フェイゾンの弾性定数を微視的に計算することを目的とした。研究の途上で、準結晶の弾性定数、特に有限温度における振る舞いを調べる際に、準結晶に特有な原子位置のジャンプも考慮すべきであるということが指摘された。そこで、このようなジャンプも考慮した2次元準結晶の原子構造模型に対するモンテカルロ計算のコードを譲り受け、これにより正10角形型(D相)準結晶Al-Ni-Co系の構造模型、特にAlと遷移金属の組成、あるいはNiとCoの組成が理想的な値からはずれた時の構造変化を系統的に調べた。その結果、basic-Nickelと呼ばれる秩序相の出現する組成領域では細い六角形(Hexagon)、ボート形(Boat)、星形(Star)の3種類のタイルで整理できる局所構造(HBSタイル)が得られるのに対して、Coの組成が大きな所ではH, B, Sに加えて10角形のパターン(原子コラム)が現れることを見出した。準結晶におけるフェイゾンも含めた変形に対する応答、弾性定数の見積もりについては、ここで得られたような構造模型に対して、原子位置の緩和まで考慮して安定構造を得て、それに対して圧縮・せん断変形をした時のエネルギー損を得なければならないが、長周期の構造に対してモンテカルロ計算により最適な構造を得ることが難しいなど、解決すべき点も多い。 これらの研究と並行して、2000年以降に相次いで発見されたCd-Yb系、Zn-Mg-Sc系準結晶の近似結晶にあたる立方晶の電子状態を第一原理計算により研究し、その安定化のメカニズムについて研究した。これらの系ではCd, Znのp軌道とYb, Scの(ほとんど占有されていない)d軌道との間の混成が重要な働きをしており、原子同士の化学結合性を詳しく見ると単純な金属結合とは非常に異なる様相があることがわかってきている。
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