研究概要 |
本研究の目的は,高温超伝導体母物質などの2価の銅を含む反強磁性絶縁体の単結晶を作製し,誘電率の温度依存性・異方性・周波数依存性を精密に測定し,母物質の誘電応答の特徴を実験的に明らかにするものであった。 本研究を通じて,Bi_2Sr_2CaCu_2O_8系の高温超伝導体母物質のなかで最も乱れの少ない系として,SrサイトをLaで部分置換したBi_2(Sr, La)_2CaCu_2O_8の合成に成功した。またBiサイトをPbに置換し,BiO面に存在する超周期構造の形成を抑制した試料を合成し,光電子分光や走査トンネル分光(STM)の研究を展開できたことも大きい。これらはすべてデバイ型の誘電緩和を示し,電荷分布の不均一化がドープ直後から始まっていることがわかった。実際,STMで,擬ギャップが空間的に不均一に分布していることが観測された。 2価の銅を含む周辺物質の中で,巨大誘電率を示す物質CaCu_3Ti_4O_<12>はきわめて異常な置換効果を示し,その誘電性の起源を探る意味で重要な手がかりを得た。また,高温超伝導体母物質と同じく,電荷密度が空間的に不均一になる有機導体θ-(BEDT-TTF)_2MM'(SCN)_4(M=Rb, Cs : M'=Co, Zn)を調べた。驚くべきことに,M=Csは,直流バイアス印加によって巨大な非線形応答が見出された。今後,新しい物性科学の方向を暗示しているようで興味深い。
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