研究概要 |
量子確率過程を用いて,ニュートロンスピンエコーなどで実験的に観測されているトンネル時間を評価するためには,通常の位置空間でのネルソンの量子確率過程にスピン空間での過程も考慮する必要がある.本研究では,ウィグナー関数を用いたスピン空間での量子確率過程の構成を行った.スピン空間での量子確率過程は,整数スピンの場合にその構成がCohendet et al.(J. Phys. A21,2875,1988)によりなされていたが,半整数の場合はウィグナー関数の構成自身に困難があった.研究発表の雑誌論文1では,まず半整数スピンに対応する偶数の格子点からなる格子上のウィグナー関数について調べた.その結果そのようなウィグナー関数が複数存在すること,さらにそれらがすべて1つのウィグナー関数から直交変換により得られることを示した.雑誌論文2では,ウィグナー関数の性質をさらに詳しく調べ,量子位相空間の回転に対する共変性を課すと整数スピンに対応する奇数格子上ではウィグナー関数が一意的に定まり,Cohendet et al.の結果と一致すること,しかし半整数スピンに対応する偶数個の格子点からなる格子上では一意的に定めることは出来ないとの結果を得た.最近,論文1を発展させ,Leonhard(Phys. Rev. Lett74,4101,1995; Phys. Rev. A53,2998,1996)が指摘した偶数格子でのゴースト変数の存在は実は奇数格子にも存在すること,この観点からは奇数格子・偶数格子を対等に扱えるとの結果を得た.この場合,奇数格子に対してなされたCohendet et al.の手法は偶数格子に対しても適用でき,多少の変更を加えることによりスピン空間での量子確率過程をマルコフ過程として構成することができた.結果は現在取りまとめ中である.トンネル時間の計算機上でのシミュレーションに対しては,発表できる十分な結果はまだ得られていない.
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