研究概要 |
1.100M-89GHz領域で水/2-プロパノール、水/エチレングリコール、水/tert-ブタノール系等の誘電緩和スペクトルを精緻に分析した。各緩和過程(水素結合システムの共同運動、アルコールモノマーの回転、水酸基のフリッピングモーション及び水単分子の回転)を高精度で分離し、2成分混合の水素結合液体の緩和機構に関する新しいモデルを得た。更に、高精度で得られた緩和時間τ_1の温度及び濃度依存性の定量分析=活性化過剰部分モル量(誘電緩和過程の活性化自由エネルギー、エンタルピー、エントロピーに対する成分ごとの実質寄与)を分離するアプローチから、(1)希薄領域では水分子間の水素結合の数及び強度が増加すること、(2)疎水基の立体障害効果による局所的な水素結合サイトの減少や、特にアルコールOH基が新たな水素結合パートナーをみいだす確率が、水素結合の再配列ダイナミクスのタイムスケールを支配する重要な要素であることなどを示した。 2.10種のアミノ酸水溶液(Gly,Ala,Val,Leu,Ile,Ser,Thr,Pro,Cys,Met,Phe)には、3つの緩和プロセス(アミノ酸分子の回転拡散、バルク水の共同運動、水単分子の回転)が存在することを明らかにした。アミノ酸との相互作用によって外部電場に対する配向が凍結したかに見える溶質1個当たりの水分子の数(実効水和数)と、アミノ酸の双性イオンの気相ダイポールモーメントを求めた。実効水和数がアミノ酸側鎖の疎水性の増加と共に増加し、濃度の増加と共に減少することを明らかにした。後者はアミノ酸疎水基の会合を示唆する。アミノ酸ダイポールモーメントはアミノ酸の濃度によらずほぼ一定であることを明らかにし、高濃度域においてもダイポール間の回転相関は無視できるという驚くべき結果を得た。 3.カラギーナン水溶液中において、導電性による測定精度の悪化を改善する誘電率測定装置を開発した。ポリマーの軸と平行及び垂直方向へのイオンの揺らぎに帰属される、kHz及びMHz領域で誘電緩和を観測した。前者では低温のヘリックス状態のみで巨大な緩和強度が観測され、コイルヘリックス転移による軸に沿った線電荷密度の増大と、そのイオン選択性を確認した。
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