研究概要 |
中エネルギー領域での大角・単回散乱における荷電変換、非弾性エネルギー損失及びスペクトル形状の統一的理解は、イオン散乱による固体表面の構造・ダイナミクス解析に必要不可欠である。しかしながら、ガス標的を使った原子衝突実験では、標的密度と弾性散乱断面積が非常に小さいため、実際の測定は困難であった。本研究は、清浄な単結晶固体表面を用い、大角・単回散乱における荷電変換、非弾性エネルギー損失及びスペクトル形状を高分解能トロイダル分析器で測定・解析したものである。本研究で使用したトロイダル分析器はΔE/E=9×10^<-4>という優れた分解能を有し、1原子層の深さ分解能を持つ。単結晶試料として、B-type-N1S12(111),MgO(001),KI(001),S1(111)・√<3>×√<3>-Sbを、アモルファス試料としてSi0_2、Hf0_2膜を使用した。本研究で明らかにしたのは以下の5点である。 (1)中エネルギーHeイオンに対する大角・単回散乱後の電荷分布は一般に非平衡で、原子番号の小さな標的原子(Z_2 20)ほど平均電荷は大きくなる。また原子番号の大きな標的原子に対しては、平均電荷はMarion-Youngの半実験式にほぼ等しくなる(±20%)。 (2)Heの平均電荷は、散乱軌道に沿って、電子密度と滞在時間の積を積分した量でスケーリングすることが出来る。 (3)最表面原子に散乱されたHe、Neイオンの平均電荷は出射角依存性を示し、出射角(結晶面から測って)が小さいほど平均電荷は小さくなり平衡電荷分布に近づく。 (4)S1(111)-√<3>×√<3>-SbのSb原子から散乱されたHeの単回散乱での非弾性エネルギー損失を測定した。得られた結果は、Schiwietzの理論計算と一致。スペクトル形状は低エネルギー側にTailをもち、非対称GaussianまたはGaussian-Lorentzian型となる。 (5)Neなどの重イオンがHigh-Z原子に大角散乱される場合、分子軌道形成による電子密度分希の変化により散乱断面積は増大し、従来の遮蔽Coulomb Potentialの修正が必要。
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