研究概要 |
本研究の目的は,近年進歩の著しいディジタル処理技術を用いて,従来アナログ回路で行っていた地震計の負帰還制御をディジタル化したディジタル・フィードバック地震計(DFS)実用化のための基礎データを収集し,その結果を今後の開発研究に生かすことである.DFSには振子運動の非線形性の補正による精度の向上,ディジタル処理による計測周波数帯域の容易な変更や地震計設置時における精密作業の自動化など利便性が多いが,その実現には様々な問題が横たわっている. 問題点を明らかにし,その解決法を見出すために,数値実験による地震計のシミュレーションを行った.その結果,振子に作用させる負帰還力の遅延が地震計の特性と安定性に致命的な影響を与えること,既存の16ビットAD・DA変換器を利用しても,既存のアナログ式広帯域地震計と同等の140dBのダイナミックレンジが得られる可能性が高いことなどを明らかにした.制御遅延を小さくする必要から,負帰還力を計算する演算素子は従来型の処理装置では能力不足で,高速演算可能な処理装置DSP (Digital Signal Processor)を採用し,フィールドでの利用可能な低消費電力の固定小数点演算DSPのTI社製32C5402を搭載した評価用ボードと,これに接続できる高速16ビット分解能のAD及びDA変換器回路を新規に製作して負帰還演算回路を試作した.負帰還演算回路をDSPで制御するためのソフトウエアも新規に開発した. DFS実現化をより進めるために,アナログ方式の従来の地震計を改造しその振子機構を用いて試作機を製造した.これにディジタル処理装置を接続し,プロトタイプを製作した.この様な振子機構とディジタル処理回路を結合し,基本動作の試験を行った.外部からテスト信号を入力する試験では,設計どおりの結果を得たが,実際の地動の測定には計測ノイズの軽減に更に工夫を要することが判明した.今後は,本研究で完成した試作機を用いた実験を積み重ね,実用化の目指した研究に発展させたい.
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