研究概要 |
南海トラフ付加体の海底付近には膨大なメタンハイドレートが分布している。付加体深部で十分な熱、分解炭化水素ガスが生成していることが明らかになれば、流体移動が活発な付加体ではハイドレート層をキャップロックとした熱分解フリーガス鉱床が形成される可能性がある。陸上四万十帯堆積岩とODP Leg190(2000年5月、南海トラフ)で採取された試料についてこれらに含まれる炭化水素の検出を行い、四万十帯堆積岩よりメタン、エタン、プロパンを得た。炭酸塩脈をより多く含む試料ほど多くの炭化水素ガスを含むことから、これらは地下深所で生成した熱分解ガスが炭酸塩脈中にトラップされたものである。一方、ODP試料には炭化水素ガスを検出することができなかった。これは、ODP試料では炭酸塩脈を含む試料を入手できなかったためである。そこで、ODP試料について微生物バイオマーカーの探索とその分子レベル炭素同位体比の測定を行った、ODP Leg190,Site 1175,1176,1178の抗井試料を分析した結果、微生物に由来すると考えられるホパンポリオール、ジプロプテンを検出した。ジプロプテン濃度は深度の増加と地質時間の経過にともない急激に減少しており、二重結合の位置が変化した続成生成物(Hop-17(21)-eneなど)の増加が認められた。ホパノールは全試料に共通して検出された。ジプロプテンは真正細菌、アーキアの両者に共通して含まれている、濃度が高く分離が良い15試料中のジプロプテン+HOP-21-eneの炭素同位体比は-22〜-39‰の間にある。これはジプロプテン+Hop-21-eneを生合成した微生物(真正細菌、アーキア)が主に堆積物有機物に由来する炭素化合物(熱分解メタン、二酸化炭素、有機物そのものなど)を利用していることを示している。今後、メタンや二酸化炭素を利用するアーキアに由来する新しいバイオマーカーの探索とその炭素同位体比測定が必要である。
|