研究概要 |
準安定相の核形成過程での結晶核中の不規則型積層欠陥構造の役割を明らかにするため、シリカ鉱物の準安定相の室内合成実験並びに内部構造変化の観察、そして天然試料の解析を行った。 温度175〜250℃でのシリカ鉱物の熱水合成実験の結果,準安定相であるクリストバライトの出現時よりも安定相である石英の出現時の方が高い過飽和度を示す。また,晶出初期の石英粒子中には積層欠陥を多く含むモガナイトが認められ,この温度域ではこのモガナイトを核とした不均質核形成により石英は晶出する。このような組織は,メノウなどの天然の試料でも同様に認められる。両者の結晶構造の比較からモガナイトが石英よりも小さな表面自由エネルギーを持つことは期待できないこと,また,晶出初期の結晶は非常にラフな表面をもつことから,モガナイトの出現は,核形成時の表面自由エネルギーの有利性に起因するものではないことは明らかである。 また,様々な温度で晶出した石英の含水量の測定結果は,生成温度の低い石英ほど高い含水量を示す。このことから,石英の溶液成長の場合,準安定相が形成されるような低温域では珪酸成分の脱水和が晶出反応を律速し,より多くの"水"の含有を許容する結晶構造ほど早く晶出する。不規則型欠陥構造はこのような水を許容する場としてあるいは水を含んだ結晶の緩和構造として働いていることが透過型電子顕微鏡の観察結果から示唆される。また,不均質核による核形成の場合,不規則型欠陥構造の形成は不均質核との濡れを大きくでき,核形成には有利に働く。 このように準安定相の形成は表面自由エネルギーの寄与によるものではなく,不純物の取り込み易さと不均質核との濡れの二つが関わる場合があり,これにより不規則型欠陥構造が準安定相形成に大きな役割を果たしていると考えられ,不規則型欠陥の構造とエネルギー的な安定性が準安定相の核形成を左右している。
|