研究概要 |
マントルの流動特性を理解する為には,マントルを構成している鉱物のレオロジー特性(塑性変形特性)を変形実験によって理解する必要がある。特に,圧力の効果の解明は,非常に大きな圧力場であるマントルの流動特性の解明の最もさし迫った重要な問題点となっている。しかし,これまで変形実験に用いられてきた装置では,発生できる圧力の限界(約2GPa)の為に,この問題を解決する事ができない。そこで,本研究では,上部マントルに相当する圧力領域での鉱物のレオロジー特性を明らかにする事を目的とし,マルチアンビル型高圧発生装置と放射光及びCCDカメラシステムを併用した全く新しい変形実験技術の開発を行った。 実験はSPring-8のBL04B1ビームラインに設置されているマルチアンビル型高圧発生装置(SPEED-1500)とCCDカメラシステムを用いて行った。本実験の原理は,高圧力容器中の高圧・高温・差応力状態にある試料の全景(歪状態)を,強力なX線を用いたラジオグラフィ法によって観察する事にある。49回におよぶ実験の末に,新しい変形実験技術を確立させた。この方法を用いると,約7GPaまでの圧力領域で,マントル構成鉱物の変形実験を行う事ができ,そのレオロジー特性をメカニカルデーター(流動則)として表現する事が可能である。この圧力は,従来の変形実験装置で発生できる圧力の約3倍に相当する。 開発した変形実験技術を用いて,上部マントルの最も主要な鉱物であるオリビンの変形実験を行った。その結果,圧力の増大に伴って,変形機構図中で示されている変形メカニズムのうち,転位すべり領域が,より低応力側,すなわち,転位クリープが卓越する領域に拡大する可能性がある事が分かった。この結果は,上部マントルではオリビンは転位クリープによって変形が進行しているというこれまでの考えとは異なり,上部マントルのある部分では,転位すべりによって変形が進行している可能性を示唆する重要な発見である。
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