研究概要 |
1.「平面から非平面構造へと変形している共役電子系では、非平面な構造の安定性はどこから生ずるのか」、ということを目的として、理論研究を行った。つまり、非平面な形状をした共役分子において、擬Jahn-Teller効果の物理的な描像を解明し、非平面共役電子系における結合特性を明らかにすることを試みた。なお、数値計算はab initio MCSCF計算を用いて行った。 2.この研究で取り扱った主な共役電子系は、(1)Azepine, Oxepin,1,4-Diazocine,および1,3,5,7-Tetrazocineと呼ばれる環状共役8π電子系と、(2)Corannuleneを典型的な分子とする[n]Circulenes(n=4,5,7,8)と総称される共役電子系である。平面構造および非平面構造における全エネルギーを軌道理論を用いて計算し、これを運動エネルギー、電子-核間引力エネルギー、電子間斥力エネルギーおよび核間斥力エネルギーなる成分に分割し、構造変化に伴いどのエネルギー成分が大きく変化するかを解析した。解析の結果、平面から非平面構造に変化する際に、電子核間引力エネルギーは低下する一方で、電子間反撥エネルギーと核間反撥エネルギーは増大することが見出された。 3.この結果から、ここで取り扱った共役分子について次の結論が導かれる。「分子骨格が屈曲して非平面な形状になると、電子間、核間、および電子と核との間の距離は短くなる。前者の二つに起因する静電斥力相互作用は、分子骨格の変形に伴いそれらのエネルギーが増大するのに対して、電子核間引力エネルギーは大きく低下する。この引力エネルギーの低下量が反撥エネルギーの増大量を十分に償うので、非平面構造の安定化が実現する。
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