研究概要 |
振動相互作用が大きい振動モードの解析は,タンパク質や液体など比較的サイズの大きい分子系の構造化学において重要であり,それらのモードが関係した現象を解析することにより,深い洞察が得られることが期待できる.本研究では,この点に関して,次に示す研究を行った.(1)時間領域光学過程のシグナル強度を決定する要因を解明するため,極性分子液体の低波数ラマン及びOKE強度に対する分子超分極率の効果を,具体的な液体系を対象に検討した。(2)液体中における分子振動の共鳴励起移動によって起こるラマンバンドのノンコインシデンス効果に対する,液体ダイナミクスの影響について,理論的に解析する手法を考案し,実際の液体系を例にとって解析を行った.液体ダイナミクスによって液体の振動固有状態がサブピコ秒の時間スケールで変化する様子を,具体的に明らかにし,時間領域の分光データを解析する際の指針を示した.(3)液体中における分子振動の共鳴励起移動を阻害する要因である振動位相緩和のメカニズムについて,深い知見を得るために,双極子微分が大きい振動モードと無極性溶媒の間の相互作用を解析した.四塩化炭素など,広く用いられる幾つかの無極性溶媒分子について,分子周辺に比較的大きい静電場が存在し,それが塩素原子などの上に存在する電気四重極子に由来するものであることを見出した.(4)メタノールと四塩化炭素の混合液体を対象に,ラマンバンドのノンコインシデンス効果の濃度依存性を解析し,濃度によって変化する液体構造の様子を明らかにした.特に,メタノールに四塩化炭素を混合するにつれて,微視的に異方性のある構造変化が起こっていることを具体的に示した.(5)タンパク質自体とその中に含まれる色素分子の間の相互作用による,光学的性質の変化の様子を明らかにした.特に,振動相互作用が大きい振動モードの果たす役割を明らかにした.
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