研究概要 |
1.FrankとEvansの"iceberg structure"形成説の実験的な証拠による否定 分子中の疎水性基の構造と大きさが異なる1,4-ジオキサン,1,3-ジオキサン,4-メチル-1,3-ジオキサンの3種のジオキサンと水の2成分系について,全濃度領域でNMRとIRを測定した.いずれも,混合によってΔH<0にもかかわらず,水プロトンのケミカルシフト,O-H振動波数の変化の測定結果より,水分子は水素結合が強くなることはなく,"iceberg structure"を形成しないことを確認した. 2.極性基を持つ有機化合物中のCH基の新しい水和機構の提案 1,3-ジオキサン,テトラヒドロフランは,ともに,極性基であるエーテル酸素の隣のCH_2と,さらに離れたCH_2をもつ.それぞれの環状エーテルと水との2成分系のIRスペクトルより,1)CH基と水との間のブルーシフトする水素結合は2段階で形成されること,2)水とエーテル酸素との水素結合形成と,エーテル酸素に近いCH_2基と水分子とのブルーシフトする水素結合は同時に始まることが示された.これより,水分子はOH…O<とCH…OH_2を同時に形成する二官能基水素結合形成によってCH基と弱い水素結合することで水和するメカニズムを提出した.(1,2について,J. Phys. Chem. Bにおいて2003年4月に発表した) 3.Blue-shifting H-bondとRed-shifting H-bondの統一した水素結合理論のための,ab initio M. O.法による計算に基づくサポートと実験的な証拠の提出 アセトニトリル-d_3のC-Dをプロトンドナーとして,ジメチルスルホオキシドとアセトンをプロトンアクセプターとしたとき,C-D伸縮振動バンドの波数はそれぞれレッドシフトとブルーシフトを示した.一方,ジメチルスルホオキシドを異なる強度の電場中に置いてC-H伸縮振動バンドの波数をab initio M. O法で計算したところ,電場の強さに対応して波数は高波数から低波数に変化した.これより,ブルーシフトする水素結合と通常のレッドシフトする水素結合は共に,電場中の振動双極子として統一的に扱うことのできることがわかった.
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