研究概要 |
核磁気共鳴型量子コンピューターの基礎的実験を、^1H-NMRスペクトル装置を量子力学的演算手法として行う際に適当なコンピューター分子は、分子中の^1H核の化学シフト値が十分に離れており(0.5ppm)、それら磁気的に非等価な^1H核種間のcoupling定数(J)が大きく、^1H核の縦緩和時間(T_1)が、量子コンピューター実験用演算パルスを照射する時間に比較して十分に長いという特性を持つことが必要である。この特性を持つ3及び4-スピン系分子として、1,1-ジクロロ-2-チオフェニルシクロプロパン(3スピン)と1-クロロ-2-チオフェニルシクロプロパン(4スピン)及び、これらコンピューター分子のCl原子をBr原子に置換したブロモシクロプロパン分子を合成し、^1H-NMR測定、コンピューター分子の熱安定性並びに光安定性の確認実験を行い、Deutsche-Jozsaの問題を解く量子コンピューターの実験に十分に使用可能であることを確かめた。続いて、量子コンピューター実験を行うためのNMRパルスシーケンスは、H_2O分子の1-スピン系用パルスシーケンスを基に、2-スピンから4-スピン系にまで拡張したものを考案し、磁化ベクトルのシュミレーション実験では、量子力学的並列処理の実験が可能なことを確認した。また、コンピューター分子の構造を迅速にかつ正確に予測することが可能な、正確な分子力場を作成し、構造のみならず赤外線吸収スペクトルの振動波数や熱力学諸量の理論的予測が可能なことを示した(J. Comput. Chem.、Chem. Lett.に報告)。さらに、スピン系を拡張するために、3-、および4-スピン系の構造ユニットを、^<31>p核を有する官能基で結合した5〜7-スピン系コンピューター分子の分子設計を現在行って、分子の合成を行っている。3-および4-スピン系の量子コンピューター実験は、考案したパルス照射が可能なNMR装置があれば、実現が可能と思われ、量子力学的並列処理の有用性の検証実験を行って、NMR量子コンピューターの実現への一歩を踏み出したいと考えている。
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