研究概要 |
分子間水素結合を利用したカルボン酸誘導体の光反応制御に関して,次の知見が得られた。 1.カルボン酸誘導体として芳香族イミド類を用いた場合に,水酸基との分子間水素結合による光反応制御が特に効果的に働くことが明らかになった。さらに,溶媒ではベンゼンなど極性の低い溶媒を用いた場合に,また温度に関しては低温ほど,光反応の制御が効果的に行えた。また,1,8-ナフタルイミドの光反応系では,水酸基との分子間水素結合によって付加の立体選択性が制御されると同時に光反応性がかなり顕著に強められることが明らかになった。 2.光物性に対する分子間水素結合の影響を明らかにするため,芳香族イミド類のケイ光スペクトルに対するアルコールの添加効果を検討したところ,S_1(ππ*)とS_2(nπ*)のエネルギー差が大きなイミドの場合にはアルコールの添加によって発光強度にそれほど大きな変化は認められなかったが,S_1(ππ*)とS_2(nπ*)のエネルギー差が小さな1,8-ナフタルイミドの場合には発光強度が大きく増加することが明らかになった。 3.さらに強い相互作用を期待してトリフルオロ酢酸の添加効果を検討したところ,S_1(ππ*)とS_2(nπ*)のエネルギー差が大きなイミドの場合には添加によってケイ光強度の減少が認められ,S_1(ππ*)とS_2(nπ*)のエネルギー差が小さな1,8-ナフタルイミドの場合には,低濃度の酸の添加によって強度が約5倍と顕著に増大し,より高濃度の酸の添加によってケイ光強度が減少する,二段階のスペクトル変化が観測された。 4.1,8-ナフタルイミドとスチレンとのベンゼン中での[2+2]光環化付加反応に対するトリフルオロ酢酸の添加効果を検討したところ,ケイ光強度の変化にほぼ対応して反応性が変化し,分子間水素結合により励起分子の反応性自体が制御されることが明らかになった。
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