研究概要 |
光応答性部位として配位子上にアゾ基を有するシッフ塩基錯体を主な研究対象とし,新規な光応答性色素錯体の開発,および錯体の電子状態や立体構造を変化させることによるフォトクロミズムの制御と制御メカニズムの理解を目的として研究を行った。まず,4-aminoazobenzeneと2-(diphenylphosphino) benzaldehydeから合成したシッフ塩基とハロゲン化物イオン(Cl^-,Br^-,I^-)を配位子とするPd(II)錯体の合成と構造の決定を行い,紫外光(280〜400nm)の照射によるアゾ基のtrans-cis異性化反応を検討した。異性化率はCl^-よりもBr^-で低下し,I^-では異性化しないこと,また,量子収率もCl^->Br^-の順で低下することを明らかにした。これらの錯体の紫外部の吸収スペクトルは,MLCTの強度がCl^-<Br^-<I^-の順に増大することを示しており,照射した光のエネルギーがこの順でMLCT遷移に使われるため,異性化に必要なアゾ基のπ-π^*遷移が抑制されたと考えられる。次に,1-Phenylazo-2-naphthylamineと2-(diphenylphosphino) benzaldehyde,2-(tert-butylthio) benzaldehyde,2-pyridinealdehyde等から得た二座配位子を含むPd(II)錯体を合成し,構造を決定した。これらの錯体が,アルコールと反応して配位様式が変化した後,C1-との反応で再びもとの配位様式に戻ることを見出した。ジクロロメタン中では,紫外光照射により発生する微量のCl^-とも錯体が敏感に反応して配位様式が変化する。 本研究により,アゾ基を配位子上に有する新規な光応答性色素錯体の合成と構造決定を行い,これらの錯体が示す光反応性を明らかにすることができた。
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