研究概要 |
ゲルはネットワークと溶媒からなる2成分系であり,両者の相互作用の変化によりユニークな性質を不す事が知られている.これまでハイドロゲルを研究対象とし,ゲルを構成する2成分のうちの1つである溶媒が散逸していく乾燥過程における物性変化を種々の手法を用いて観測を行ってきている.その結果,これまでの研究によりゲル中の自由水が消失する時点(含水率)において,体積,温度,弾性等が急峻な異常を示す等の興味深い現象を観測し,乾燥過程をガラス化過程,乾燥物を1種のガラスとして捉え得る事を報告してきている.この事は引き続き行った乾燥物の昇温時における熱的・弾性的変化の観測からも支持されたが,乾燥ゲルの低周波ラマン散乱スペクトルの温度依存性の観測から,通常のガラスとは異なる側面を持っている事も明らかとなった.この複雑な様相は,ゲル内部の網目架橋や残存する溶媒に関連した不均一から来ていると考えられ,ゲル乾燥物は1種の不均一構造を含んだガラスと見なせると考えている. また,この不均一構造が低周波ラマン散乱プロファイルに生じる事を考慮するとその特徴的な大きさはいわゆるメソスコピックスケールに事が予想されるので,これ以降,報告者らはゲル乾燥物におけるメソスコピック構造形成に注目し,そのキャラクタリゼーションと制御の試みを行って来ている.中でも,以下に示す様にイオン基と疎水基を有するN-イソプロピルアクリルアミド/アクリル酸ナトリウム(NIPA/SA)共重合ゲルでは,乾燥によりメソスコピック領域において極めてはっきりとした構造を作る事が小角X線散乱により明らかとなった.更に,NIPA/SAの比率,含水率,また吸着金属イオンの種類が異なる試料においてこの構造が大きく変化する事も見出し,乾燥ゲルにおけるメソスコピック構造が外部条件により制御可能である事を明らかにした.
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