研究概要 |
本研究では,オニウム塩に紫外光や電子線照射によって自発光する希土類イオンを導入した金属錯体を合成し,それらの新しい発光材料としての可能性について検討した。合成した化合物は,3価の希土類イオンと2本長鎖アンモニウムイオンとから構成される単純な構造をもつ。これらのレアアース錯体は,比較的広い温度範囲で安定な層状の液晶相(スメクチックA相)を示すことがわかった。また,これらの化合物は固体状態において結晶化が起こらず,秩序構造(スメクチックB構造)を有する液晶ガラスを自発形成することが明らかとなった。本系の特徴は,レアアース錯体液晶を液晶温度から急冷することによって,容易に固体状態の液晶ガラス薄膜を調製でき,かつ薄膜中において希土類金属イオンが規則的に配置する点である。自己組織的な薄膜成形加工性を有するレアアース錯体液晶は,無色透明な新しい発光材料として利用できると期待される。 さらに上述の概念を発展させ,π共役部位(発光部位)を対イオンとするオニウム錯体を合成し,それらの自己組織化能をはじめとする基礎物性を評価するとともに,πスタッキング相互作用を活用した新規発光材料の構築を試みた。キラルなビナフチル骨格をもつリン酸イオンを対イオンとするアンモニウム錯体は,液晶相においてビナフチル基がπスタッキングすることによって擬似らせん高分子鎖を形成することが明らかとなった。このような非共有結合型の1次元共役らせん構造を利用することによって,従来のらせん共役高分子では困難な円偏光発光や圧電性,光変調特性などの外場応答性(スイッチング)が期待できる。また,アントラセン骨格を有するアンモニウム錯体の場合は,固体薄膜中でアントラセンの2次元πスタッキング構造が誘起され,薄膜が半導体特性を示すことがわかった。自己組織型の2次元有機半導体薄膜への応用が期待される。
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