研究概要 |
当該研究について,交付申請で記載した研究実施計画の各項目(3点)に関して,下記に示す研究実績を得た。 1)フラグメントインプリント法の確立に関して 天然肝臓毒であるミクロシスチンに対して,同族体の共通構造である疎水性側鎖(Adda)部分のフラグメントインプリント法を検討し,アルキルペンゼンのような簡単な化合物がその構造類似鋳型となることを見いだし,比較的緩やかな認識が同族体の認識にも有意であることを見いだした。また,毒性発現に重要な環状構造に含まれるD-グルタミン酸のフラグメントインプリントとの組み合わせにより,毒性認識に近い同族体認識が可能となった。 2)毒性発現機構に基づく識別能の獲得に関して 1)で得られた知見を基に,同様の毒性発現をする天然毒群に対して,詳細な検討を行った結果,疎水性側鎖(Adda)に加えて,グルタミン酸をフラグメントインプリントした人工レセプターでは,同族体の毒性発現に重要ではないその他の構造に依存せず,毒性を発現する同族体に対する一様な認識能を持つことが明らかとなった。また,二つの認識部位の固定化という新たな方法により,肝臓毒・シリンドロスパモプシンに対しても認識効果を得た。 3)環境試料の前処理剤としての利用に関して 得られた人工レセプターを,実際の環境試料の前処理に用いたところ,環境試料中に多く含まれる腐食成分を選択的に排除し,目的物質を千倍以上に吸着濃縮することが明らかとなった。このことは,旧来の試料の前処理ではきわめて煩雑であった,フミン質の除去と目的成分の濃縮を一度に達成することが可能であることを意味している。 また,対象物質の構造の中の二つの部位のフラグメントインプリントの実施により(上記),毒性発現に関わる重要な構造認識が可能となり,毒性を発現しない他の化合物に対する非認識に大きく寄与することが明らかとなった。 このように,複数の天然毒に対して,当初に設定した目標を予定通りに達成することができた。
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