研究概要 |
1.森林の林床環境は,林冠を構成する樹木の世代交代にともなって変化する.林床環境の時間的変化は,林床に成育する草本の生活様式や個体群動態に直接影響する.そこで,動的な森林更新下での草本植物の生活史戦略を明らかにすることを目的として,森林の更新様式のちがいが林床植物の生活史と個体群動態に及ぼす影響を調査・解析した. 2.縞枯れ更新林とギャップ更新林が隣接して存在する長野県北八ヶ岳縞枯山において,各調査区内に成育する全てのオサバグサ個体を標識し,種子生産および冬芽の直径を測定した.さらに,栄養繁殖由来の新規加入個体を標識し冬芽の直径を測定した. 3.個体群動態調査によって得られたデータから推移行列モデルを作成し,個体群増殖率(λ)および生活史の変化が個体群の増殖に与える効果を解析した.その結果,ギャップ更新林のオサバグサ個体群の方が大きいλを示した.またギャップ更新林では閉鎖林冠によって被陰された環境でλが低く,縞枯れ更新林では立ち枯れ帯の明環境でλが低かった.メガ行列モデルの感受性分析の結果,縞枯れ更新林では成熟林分での幼個体の生存および実生の定着がλを低くする要因となっており,ギャップ更新林では幼個体および開花個体の生存、実生の定着がλに大きく寄与していることが示唆された.それぞれの調査区の個体群動態についてのLTRE解析の結果,λの差異に大きく寄与した要因は,(1)林床の光環境と(2)林床の光環境と更新パターンの交互作用であった.これらの要因は,幼個体の生存率,幼個体から開花個体への推移確率に影響することによって,λの差異に寄与していた.
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