研究概要 |
本研究では,トンボ類のDNAに基づく系統解析と精子あるいは交尾器の進化に関する解析を行った.まず,トンボ類(蜻蛉目)の内,均翅亜目に属する多数の種について分子系統関係の概略を明らかにし,精子と交尾器の形態の関係をみた.その結果,近縁種間においても,精子の形態や交尾器の形態に大きな違いがみられた.これは,交尾行動と関連して,精子や交尾器の形態に選択圧がかかっていることを示唆している.均翅亜目以外のトンボ類(ムカシトンボ亜目と不均翅亜目)では,集合精子を形成する種と無鞭毛精子を形成する種がみられた.トンボ類全体の系統樹の作成は未完であるが,精子を集合させて受け渡すことと,精子の鞭毛が消失することが,それぞれ1回,トンボ類の系統の中で生じたのではないかと推測される.本研究では,また,交尾の際にメスの体内に蓄えられている他オスの精子をかき出すことが知られているカワトンボについて,移精に伴う精子の量(精子数)と質(死亡率)の測定を行った.他オスの精子をかき出してしまうために,メスは多数回交尾をするにもかかわらず体内の精子量はほぼ一定に保たれていた.蓄えられている精子の死亡率は季節とともに高くなった.オスのもっている精子の死亡率も後半ほど高くなり,そうした精子を受け取ることによって,おそらくメス側の精子の質も低下すると考えられた.この他,カワトンボ属,コサナエ属,ウスバキトンボについて,ミトコンドリアDNAではなく,核のDNAについて分子系統学的解析を行い,その結果が外部形態の比較から得られる結果と同じになることが明らかとなった.
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